地域の思い、同じ目線で 立川支局長・辻勉 

 ある日は山林に深く分け入り、ヤマザクラ、ミズナラなどの種子を採取する。別の日には、画用紙大のプラスチック皿に土を次々に入れ、数千個に及ぶ種を埋めて土をかける。夏の炎天下、15〜20センチ程度に芽生えた苗に覆いかぶさるように生えた雑草を、黙々と取り除く。
  巨樹の会、奥多摩町日原自治会、三井ボランティアネットワーク事業団、JA東京植木などが進めている「多摩みどり復活プロジェクト」の作業の一こまだ。私たち読売新聞立川支局も参加する「多摩さくら百年物語フォーラム」もお手伝いしている。
  いずれも一日がかりの作業で、活動は昨年だけで約30回に及ぶ。苗も大小1万本が育ち、2000本を山に返すところまできた。
  こだわりは「奥多摩に自生する木々の種から苗木を育て、植林事業などを通して、荒廃した山に戻す」こと。数回参加したが、実に地道極まりない作業で、ぼやきも口をついた。
  しかし、平均60歳を軽く超す参加者たちの熱意は、10歳以上も下の私をあざ笑うかのようだ。元商社マンは「あの尾根に、我々が育てたサクラが咲くのか」と、山肌が露出した一角をうっとりと見上げる。眼下に広がる森林が、植樹から50年もかかっていることを知った元広告マンは、「それまでは生きていないな(笑)。我々の活動は孫子(まごこ)のためなんだ」と豪快に笑う。心を動かされるものがあった。


  今年の多摩版は、「緑」をキーワードに、多摩で樹木や水を守り育てようとする人々の思い、努力、活動ぶりを取り上げてスタートした。「地球が危ない。緑を守ろう」と大上段に振りかぶらず、地域版の大切な視点の一つである、地域に暮らす人々の身近な思い、地道な努力を同じ目線で追った。
  政治、経済など固有のテーマを持つ面とは異なり、多摩版は、多摩で起きる出来事、暮らす人々のことを、ニュースからイベント情報まで取り上げる総合面だ。400万人を超える人々が暮らす多摩は、世界的企業から街の食品店まで、高齢化が進む団地から、若い世代が闊歩(かっぽ)する繁華街まで、実に多彩な表情を持つ。マンション建設、ごみ問題、団塊世代の活躍、自分史執筆に打ち込む人……。成熟した街だけに、記事の素材は限りない。「このテーマに力を入れたい」と絞り込むのは難しい。
  肝に銘じているのは、若手からベテランまで様々な年代、個性の記者たちが、取材対象から「おや」と驚き、共感し、琴線に触れたことを紙面に盛り込むことだ。それが読者の皆さんの共感を得ることになるだろう。
  年頭企画のネタに頭を悩ませていた記者がぼやいていた。「支局長、無農薬なので、葉っぱについた虫を一緒に手で取ってきたんですよ」と。
  ぼやき、もまた、共感する心のひとつだ。
  凶悪事件現場で感じた犯人への怒り。人生の達人の生き方に触れ、「自分も」と奮い立つ気持ち。喜怒哀楽、どの感情も大切だ。未熟と思われる若手記者だって、感受性の鋭さと情熱は先輩記者に負けない。それらをフルに生かし、行って、見て、聞いて、感じ、そして記事にすることを心がけている。そうした記事が満載された多摩版をお届けしたい。

   
 (1/11・読売新聞多摩版記事より転載 )